■脳梗塞
<症状>
- 脳へ血液を送る血管が詰まって、栄養や酸素が届かなくなり脳の組織が壊死してしまった状態を言います。
- 脳梗塞の症状は、起こった場所によって様々ですが、最も多いのが半身不随(片麻痺)です。その他には、半身感覚障害(しびれ)、構音障害(ろれつが回らない)、失語症(言葉が分からなくなったり、話せなくなる)、眩暈、ふらつきなどがみられます。
- 血管の詰まり方には「脳血栓症」と「脳塞栓症」の2種類あります。
- 「脳血栓症」:血管が動脈硬化を起こし、内腔がだんだんと狭くなって詰まります。
- 「脳塞栓症」:心臓や大血管で血栓ができ、脳まで血栓が運ばれて脳の血管が詰まります。
- 脳血栓症と脳塞栓症は、いずれも症状は似ていますが、「脳血栓症」では症状が数日かけてゆっくり進行するのに対して、「脳塞栓症」では突然強い症状が起きて意識障害が強く現れます。脳血栓よりも、一般に重症です。
- 脳梗塞は、更に3つのタイプに分ける場合もあります。アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症ですが、それぞれについては、別途にて紹介していますのでご参照下さい。
- 「アテローム血栓性脳梗塞」
- 動脈硬化により、頭の中の太い血管や脳に血液を送る頚部の動脈硬化が進行して、血栓ができて詰まります。
- 「ラクナ梗塞」
- 脳内の細い血管が詰まります。明確な原因は不明ですが、主に高血圧により血管に負担がかかり、血流障害が起きる為と言われています。
- 「心原性脳塞栓症」
- 心臓にできた血栓が脳に流れていき血管を詰まらせてしまいます。正常な心臓であれば、まず血栓はできませんが、心房細動(不整脈の一種)、心臓弁膜症、心筋梗塞などがあると心臓内の血液が停滞して血栓ができやすくなります。
<脳梗塞の前兆>
- 食事中に箸を落とす。
- 物につまずきやすい。
- 急に眩暈がする様になった。
- 言葉が出てこない、理解出来ない。
- 片側の手足がしびれる。
- 物が二重にみえる、片方の目が見えにくいなど。
- 一過性脳虚血発作(TIA)
- 一過性の血圧低下により、意識消失が起きる事があります。血流が再開すると、症状は数分~10分程度で改善されます。
- TIA直後1週間は、本当の脳梗塞が起こりやすいので注意が必要です。
- 放置した場合、脳梗塞移行率は、20~30%と言われています。
- 上記の様な症状が出現し、いつもと違うなぁと感じた場合は、確かな診断をつける為に、病院受診する事をおすすめします。
<原因>
- 高血圧(血管に負担がかかり、動脈硬化を促進する為、血管が詰まりやすく、脳梗塞を起こしやすい状態にします。)
- 糖尿病(高血圧や動脈硬化を促進し、脳塞栓を起こしやすい状態にします。)
<危険因子>
- 60歳以上の人
- 脳卒中の家族歴のある人
- 生活習慣病を持っている人(高血圧、糖尿病、高脂血症、動脈硬化など)
- たばこ、大量飲酒、ストレスなど
<検査>
- 症状だけでは、脳梗塞なのか、脳出血なのか判断できない事も多いので、最終的にはCTやMRIなどの検査が必要となります。
- 「CT」
- 外からは見えない脳の様子が分かります。X線を使って脳の表面や断面を撮影し画像にします。
- 普通のCTでは、脳梗塞発症後12時間程度経過しないと、梗塞の事実が判別できません。
- 高感度CTでは、発症直後2~3時間以内の検査では、病変部位の診断が難しい。3時間以上たてば診断が可能となります。
- 「MRI(磁気共鳴画像)」や「MRA(磁気共鳴画血管画像)」
- 磁気を使って脳の表面や断面を撮影し画像します。
- CTよりも脳の状態が詳しく分かります。CTでは分からないような脳梗塞もありますが、このような場合でもMRIで分かることがあります。
- CTと違い、撮影が輪切りだけでなく、縦切り・横切り・斜め切り等、様々な方向の断面写真を撮ることができます。
- MRAは血管の形そのものを立体的に写真にします。特殊な撮影法を使用すれば、発症後1時間後には梗塞巣を見つけることも可能です。
※詳しくは以前書いた「くも膜下出血」の記事を参考にして下さい。
- 「脳血管撮影」
- 脳内の主な血管の様子などは造影剤を使ったCTやMRAで分かるのですが、実際に血液が流れている様子や細い血管の状態、静脈などは脳血管撮影を行わないと分からないこともあります。
<治療>
- 「内科的治療」
- 麻痺などの症状が出てから間もない時(発症3時間以内であれば)は、血栓や塞栓を溶かす薬を使ったり(血栓溶解療法)、微小な血液の循環を改善させる薬を使ったり、血栓や塞栓を出来にくくする薬(抗血栓療法)を使ったりします。
- 脳の浮腫のピークは、発症から3~5日後であり、浮腫を軽減させる薬(グリセオール)の点滴や酸素の投与をします。 多くの場合、内科治療だけでも、かなりの効果があると言われています。
- 脳梗塞は、極めて早い時期(発症3時間以内)に治療すれば、後遺症は明らかに軽くなります。脳細胞がほとんど死んだ状態になる前に、閉塞血管を再開通できると麻痺はほとんど残らないと言われています。
- 逆に、脳細胞が死んでしまってから再開通すると、かえって出血したり脳浮腫がひどくなります。そういった場合は、虚血(血液が足りなくなる事)に陥った脳細胞を保護する薬の投与や再発を防ぐ治療が中心となります。
- 「外科的治療」
- 脳血流を改善する手術として代表的なものは、頚部の頚動脈に対する血栓内膜剥離術とステント術です。これらの手術は、主として将来の脳梗塞の発症や悪化を防ぐ目的で行われる事が多く、症状が比較的落ち着いている時に行われるのがほとんどです。
- 「血栓内膜剥離術」
- 動脈硬化によって頚動脈の狭窄が起こり、脳へ行く血液が不足したり、動脈硬化の部分にできた小さな血栓が脳の血管を詰まらせてしまう事があります。この様な場合に動脈硬化の部分を削り頚動脈の狭窄を治す手術です。
- 「ステント術」
- 血管内に金網状の筒を挿入して血管を広げる手術です。
<再発予防>
- 一度脳梗塞を起こすと再発し易いので、以下の様な予防が重要となります。
- 血栓を作らない薬の服用
- 生活習慣病(高血圧、高脂血症、糖尿病など)の予防
- 年1回は、MRIなどの検査を受ける事
<リハビリテーション>
- リハビリテーションの目的は、残された機能を最大限にいかし、家庭復帰、職場復帰をする事です。リハビリテーションをすると、完全に回復すると考える人もいるかもしれませんが、一度失ってしまった機能は、たとえリハビリをしても100%もとに戻る事はありません。しかし、麻痺は残っても日常生活(掃除・洗濯・炊事など)が驚くほど上手くこなしている人もいます。
<無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞・プチ脳梗塞)について>
- 自覚症状は無いが、脳ドックなどの検査で、直径2~15ミリ程度の小さな梗塞が見つかるものを言います。最近では、30~40歳代での無症候性脳梗塞が多くなってきているそうです。
- 無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞・プチ脳梗塞)が見つかれば、抗血小板薬の服用や運動療法で、本格的発症を予防していく必要があります。
- 無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞・プチ脳梗塞)が見つかった人は、将来脳卒中になる危険性もあり、次の様な症状があった場合は要注意です。
- 朝起床時、手がしびれる
- 呂律が回らない
- 記憶力の低下がひどくなった
- 眩暈がするなど